技術的補足

Fanへの出力段の回路定数について

(1)出力段の動作概要

 AVR-Fanconの出力段は、PWM信号により12V電源をFETでON-OFFし、LC平滑回路にて直流出力を得ています。出力電圧Voは、平滑コンデンサ(C)が十分に大きければほぼ一定値Voとなります。平滑コイル(L)の入力側電圧Viは、FETがonのときは12V、offのときは0Vとなります。(offのとき実際にはダイオードでの電圧降下がありますが簡単化して説明しています)

 Voは0Vから12Vの間の値となりますから、コイルLの両端の電位差はプラスとマイナスを交互に繰り返します。このとき、コイルLに流れる電流ILは右下のグラフのよう三角波となります。

 また、Fanへの負荷電流は、電圧Voによってほぼ一定のIRとなりますので、電流の過不足分がコンデンサCにより充放電されます。グラフの状態からFan電流IRを増やすときはDuty比(=Ton/T)を大きくすればよいのですが、逆にIRを減らそうとしてDuty比を小さくすると、ILminが下限の0Aにかかってしまいます。

 ILminが0Aになっても大きな支障が出るわけではありませんが、断続モードといってコイルに電流が流れない期間ができてしまい、出力電圧が計算どおりにいかなくなったり、電圧変動△Voが大きくなるなどの弊害があります。

 このため、AVR-Fanconではコイルに電流を流し続ける連続モードを採用することにし、コイルの定数L(μH)は、ILminが0Aにならないように設計することにしました。 また、コンデンサの定数C(μF)は、出力電圧のリップル△Voの設計値によって決まります。

(2)平滑コイルLの計算

 コイルLの両端電位差と電流の関係は、Voをほぼ一定と仮定すると常に次式が成立します。

  Vi-Vo=L・dIL/dt ・・・(1)

 このため、FETのon,offによって次式が成り立ちます。

  FET=on のとき : Vi=Vcc,dIL=(ILmaxーILmin),dt=Ton
   ∴ Vcc-Vo=L・(ILmaxーILmin)/Ton ・・・(2)
  FET=offのとき: Vi=0 ,dIL=(ILminーILmax),dt=Toff
   ∴ Vo=L・(ILminーILmax)/Toff     ・・・(3)

 ここで、コイルの電流変化幅を△IL(A)=ILmaxーILmin,PWM信号のDuty比をD,周波数をf(Hz)とし、出力電圧VoがDuty比Dに比例するように設計すると、

  Vo=Vcc・D ,Ton=T・D=D/f ,Toff=T・(1-D)=(1-D)/f

ですから、(2)式に代入すると、

  VccーVcc・D=L・△IL・f/D
   ∴ △IL=Vcc・D・(1ーD)/(L・f) ・・・(4)

となります。(3)式に代入しても結果は同じです。
 ILminが0(A)になるときのDuty比をDminとすると、Fanの定格電流をIF(A)として、

  △IL=ILmax=2IR=2IF・Dmin    ・・・(5)

となりますので、(4)式のDをDminに置き換えて,(5)式と比較すると、

  △IL=Vcc・Dmin・(1ーDmin)/(L・f)=2IF・Dmin
   ∴ L(H)=Vcc・(1-Dmin)/(2IF・f) ・・・(6)

となります。
 Vcc=12V,Dmin=0.3,IF=0.2A,f=31kHzのとき、L=677μHとなりますが、AVR-FanconRev4.0では余裕を見て1mHとしています。

 コイルの定数はインダクタンスLだけではなく、次に注意が必要なのは電流容量です。電流容量は、Fanにフル出力したときにコイルが発熱して焼損しないように、Fanの定格電流IFよりも余裕を持って選定する必要があります。

 (6)式を見ると、IFが大きいほどインダクタンスLは小さくなります。一般に、同じ型のコイルはインダクタンスが小さいと電流容量が大きくなりますので、IFに合わせて選定するのは比較的容易でしょう。

(3)平滑コンデンサCの計算

 コンデンサの両端電圧の変化量△Voと電荷の変化量△Qcの関係は次式が成立します。

  △Qc=C・△Vo ・・・(8)

 △Qcはコンデンサに流れる電流(Ic=ILーIR)の積分値、すなわち、上のグラフの黄色い三角形の面積と等しくなります。
 ところで上記(4)式により、△ILはD=1/2のときに最大となるので、

  △IL=Vcc/(4L・f)

ですから、黄色い三角形の面積は、

  △Qc=(△IL/2)・(T/2)/2=Vcc/(32L・f)  ・・・(9)

となります。
 したがって、(8),(9)式より、コンデンサ容量は、

  C(F)=Vcc/(32L・f・△Vo) ・・・(10)

となります。
 △Vo=0.1V、L=677μH,f=31kHzのとき、C=6μFになりますが、AVR-FanconRev4.0では余裕を見て22~47μFを採用しています。
 余裕見すぎかもしれませんが、実験では10μF以上ないと電圧変動が大きくなってしまったので、できるだけ大きくしてあります。もしかすると、どこか計算間違いがあるせいかもしれません。

FETゲート駆動回路の定数について

(1)FETゲート駆動回路の動作概要

 AVR-Fanconは、前述のとおりPWM信号により12V電源をFETでON-OFFし、LC平滑回路にて直流出力を得ていますが、このFETを制御する回路をゲート駆動回路といいます。

 FETゲート駆動回路の動作は、AVRのPWM信号VPWM(0V:off、5V:on)によりトランジスタTr1をスイッチングし、FETのゲート電圧VGとして12V:off、8V以下:onを出力します。
 AVR-FanconRev4.0に使用しているFET:2SJ668 or 2SJ681はPチャネル型のMOS-FETで、ゲート(G)-ソース(S)間電圧VGSが2~4V以上になるとソース(S)ードレイン(D)間がonになります。AVR-FanconRev4.0では、on期間のVGSを4V以上確保するため、VGが8V以下になるように設計しました。

 AVRのPWM信号による各部の動作は以下のとおりです。
 [PWM信号がoffのとき]

  • VPWM=0Vであり、トランジスタ(Tr1)のベース(B)電流Ibが流れないので、Tr1はoffとなる。
  • Tr1がoffのときはコレクタ(C)電流Icが流れないため、VG=V12となってFET1はoffになる。

 [PWM信号がonのとき]

  • VPWM=5Vであり、トランジスタ(Tr1)のベース(B)に電流Ibが流れるので、Tr1はonになる。
  • Tr1がonのときはコレクタ(C)電流Icが流れ、コレクタ電圧はほぼ0Vになる。
  • VGは12VをR3とR4で分圧した値になり8V以下になるので、FET1はonになる。

 また、回路図中のR1は、AVRからのPWM信号がない場合にTr1を確実にonにして、FANをフル回転させるためのものです。

 AVR-FanconRev4.0では、R1:4.7kΩ(集合抵抗)、R2:1kΩ(1/4W)、R3=R4:300Ω(1/4W)としており、onのときにはIb≒4mA、Ic=20mA、VG=6V、offのときはIb=0mA、Ic=0mA、VG=12Vになります。
 R3、R4はFETの動作速度を改善するため小さめの値としていますが、消費電力が定格の1/4W以内になるように考慮しています。
 また、R2は、Tr1が確実にonできるようにベース電流Ibを多めに流すこととし、1kΩとしました。

(2)FETゲート駆動回路の出力Duty比の改善

 Rev4.0のゲート駆動回路のTr1には低価格で汎用性の高い2SC1815を採用していますが、このトランジスタはスイッチング動作させると蓄積時間(tstg)が大きいため、onからoffになるまでに2μ秒ほどの遅延時間(td)が発生します。

 tdはPWMの周期32μ秒の6%程度もあるため、AVRのPWM信号のDuty比が50%だとすると、FETの出力Duty比が56%になってしまいます。tdはDuty比に関係なく常に2μ秒程度ですから、FETの出力Duty比はいつでも約6%大きくなります。

 AVR-Fanconでは、Duty比をモニタソフトFanduinaV3で設定できますので、6%の誤差が出ることを考慮して設定しておけば問題ないであろうということと、そもそもファンコンとはそれほど精密なものでもないということから、部品点数を減らすことを優先してこれでよしとしています。

 しかし、技術的に考えた場合、遅延時間tdを極力減らすことは可能なので、一例としてショットキークランプという方法を以下にあげておきます。

 ショットキークランプとは、トランジスタのベース(B)ーコレクタ(C)間にショットキーダイオードを挿入するもので、トランジスタを飽和領域で使用しないようにして、ターンoff時の高速化を図るものです。しかし、AVR-Fancon基板には残念ながらショットキークランプ用のパターンはありませんので悪しからず。試したい方は半田面に取付けてみてください。

 その他にも、R2に並列に数百pFのコンデンサ(スピードアップコンデンサといいます)を挿入する方法などがありますが、その説明は割愛します。

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